熊本大学建築音響研究室(川井・丸山研究室)では、主に音環境に関する研究を行っています。
建築・都市空間における快適な音環境の創造には、騒音制御と音響設計という大きく二つの方向性があります。
騒音制御とは建築を取りまく環境の中の有害な音を遮断し、静かな空間をつくることです。壁や開口の遮音や床衝撃音の防止などの遮音計画は建築設計の重要な項目であり、周囲の環境に応じて適切な目標を設定することが大切です。
音響設計とはコンサートホールや教室、講堂など音を聴くための建築空間において、聴きたい音をよりよい音で聴けるよう建築空間の響きを最適に設計することです。たとえばクラシック演奏においてコンサートホールとは楽器の音を響かせる容れ物であり、音響設計の良否が美しい音の鍵となります。
このように建築において音とは、快適な空間づくりに非常に重要な設計要素といえます。
保育園など幼児のための建築空間は、これまで音響面の配慮はほとんどなされていませんが、現実には子供たちの自由な発声が部屋に響く、非常に喧噪な空間となっており、その騒音レベルは聴力障害やストレスを生じるほど高い値の報告例があります。
当研究室では保育室に吸音材を導入することで、喧噪感の緩和や会話の明瞭度の向上の可能性について検証を行っています。
保育室における聞き取り実験
建築を取りまく音は不快な騒音ばかりではなく、秋の虫や小鳥の声など四季の移りかわりのなかで聞こえる自然の音、街での賑わいの音など様々に人の心を愉しませる音の風景(サウンドスケープ)があります。
不快さの軽減を目標とする騒音制御の先にある、「快適な音環境」の設計に向けてサウンドスケープをどう設計に導入するか、その基盤をつくるための研究を続けています。
(サウンドスケープとは1970 年頃にカナダの作曲家M.シェーファーにより提案された造語です。)
6chマイクによるセミの鳴き声の録音
カフェやレストランなど、たくさんのグループが同じ室内で会話をしている空間(多群会話空間)においては、他の人の声が気になって会話がしづらくなったり、自分たちの会話が他者に聞かれてしまうといった、うるさすぎても静かすぎても不快な状況が存在します。
当研究室では会話の明瞭性(はっきり聞こえる)とスピーチプライバシーの両方を考慮した、「会話しやすく快適な会話空間」を目指し、多群会話空間における適切な吸音やBGMなどの音響設計に関する研究を続けています。
カフェでのBGM音量の調整実験
交通騒音などの環境騒音の評価・管理が政策として実施されている欧州においては、ノイズマップ(騒音レベルを地図上に示したもの)を5年毎に作成し、それを基に環境の改善や保全のための計画がなされています。
当研究室では、交通騒音のうち九州新幹線を対象としたノイズマップを作成し、都市の交通騒音を評価するための研究を続けており、国内の他大学と連携し、誰もが利用できる日本のノイズマップを作ることを目標としています。
ノイズマップ
音源の性能(レベル、指向性、周波数)の測定、6chスピーカーによる心理評価実験などが可能
材料の吸音性能測定、床衝撃音測定などが可能(地下に第二残響室が併設)